『ターニングポイント―『折り梅』100万人をつむいだ出会い 』松井 久子(著)
出版社: 講談社 (2004/12) ISBN-10: 4062127083

目次

 健さんのポルシェ、渡さんの焚き火
 たちまちの蜜月
 女同士
 望郷の女たち
 お前はどう生きてきたのか?
 冬の時代に
 思いがけない後押し
 『ユキエ』産みの苦しみ
 ダイアン・キートンになったみたいだ
 ひたむきな女
 できたんだね、私たち
 ひっそりと、地域のために
 みんなで咲かせた満開の『折り梅』
 スロー・グッバイ
 あなたがいてくれたから

 『 思わず、ため息まじりにつぶやいていた。
  「いいですね、健さんは」
  すると、運転席の人は言われた。しみじみと、ひとつひとつの言葉を噛みしめるように。
  「若い頃は、自分もほんとうに貧乏でした。でも、あの頃のほうが幸せだったですね。
  夢がありましたから。できることならあの貧しかった頃に戻りたい、そう思います。
  全部手に入れてしまったら、あとは虚しいだけです。松井さんも、きっとそう思う時が
  ありますよ」』

◆冬の時代に

 『 私に残された道は、制作中止を決断するということ、それだけだった。
   しかし、ここで制作を中止したとしても、今まで準備したものがただ無駄になるだけでは
  ないのだ。今日まで一緒に準備を進めてくれた大勢のスタッフや、スケジュールを空けて
  待っている出演者に対して、相応の金銭的な補償をしなくてはならない。でなければ、
  二度と彼らと仕事をすることはかなわなくなるばかりか、会社の信用も丸つぶれになってしまう。
   Sを信じた自分がバカだったのだと思ってあきらめるには、あまりに大きな代償だった。
   たぎる怒り。無力感。自己嫌悪。そして後悔・・・・。さまざまな思いが、身体のなかを
  交錯していた。』

 『 すがる思いで、学生時代の友達をたずねた。
   久しぶりに会った彼は、多くを聞かず、「なんとかしてみるよ」と、翌日には、個人としては
  小さくない額のお金を用意してくれた。
   彼の「頑張れよ」のひと言に、思わず涙があふれそうになった。
   そして、ようやくあと一歩というところまできた時、最後の50万円のために、生まれては
  じめて消費者金融をたずねた。
   テレビCMで見慣れた看板の前に立つと、思わず足がすくんだ。
   早くこの場を立ち去りたい・・・・。
   そう思いながらATMのキーを叩く指が、かすかにふるえていた。
   あっけないほど簡単に進んだ手続きが終ると、やがて機械の中で紙幣を数えるカラカラと
  いう音がやんで、50枚の札束が目の前にせり上がってきた。
   これでようやく救われた・・・。
   胸をなで下ろす一方で、あまりにも簡単に手にしてしまった大金に、重たく不気味な感覚を
  持った。
   とにもかくにも、そのシステムのおかげで、ようやく最低限の経済的な責任を果たし終え、
  私と私の会社は、失われそうになった信用をギリギリのところで保つことができたのだった。』

◆『ユキエ』産みの苦しみ

 『「これは私の映画じゃありません。あなたの映画ですよ。自分で撮らないでどうします。
  誰かに任せてしまったら、あなたの考えとまったく違う映画になってしまいます。それじゃ
  困るでしょ」
   小説「寂寥郊野」の三年にわたる資金調達がようやくととのって、映画「ユキエ」の
  シナリオを書いてくださった新藤兼人先生に、監督もしていただきたいとお願いに行った時の
  ことだった。先生は、
  「自分で撮りなさい。女の人が、もっと撮ったらいいんです」
   きっぱりと、そう言われた。
   自分で撮る・・・? この私が、映画の監督をする・・・? 考えてもみなかったことなので、
  はじめはひどくうろたえたが、
  「この国にも、もっと劇映画を撮れる女性監督が出なきゃダメです。観客は女性が多いのに、
  監督は男ばかりです。おかしいですよ」
   とのお言葉に、ぐいと引き寄せられるものがあった。
   私は尋ねていた。
  「・・・できるでしょうか?」
  「できますよ。僕はこの前はじめてカメラを二台使ってみました。あれは便利ですね。
   あなたも二台でやってみるといい」
   新藤先生はこともなげにおっしゃって、にっこりと微笑まれた。
   あの時シナリオ会館の一室でしたそんな会話がなかったら、私は今頃、いったい何をしていた
  ことだろう。
   五十歳を目前に新藤先生と出会ったことで、こんなにも大きく人生が変わることになったのだ
  と思うと、ほんとうに不思議な気がする。
   しかし、新藤先生も大胆だったが、私もかなり大胆だった。いや、向こう見ずだったといった
  ほうが当たっている。』

★映画『ユキエ』と『折り梅』を撮るまでの、松井監督の自伝というか、コラムです。
 正直、涙なくして読めないところもあるので、地下鉄や人前では要注意です。
 とりわけ、涙腺の弱いひとは・・・。

 神田さんの、CDセミナーで対談されていました。
 映画とこの本は、経営者、必見とのことだったので、
 先日の合宿で、男4人で深夜、『ユキエ』を見ました。
 ミーティングの後で、自由解散ということにしてましたが、
 気がつけば、最後まで、全員で見ていました。
 良い映画だと思います。

 経営者に、何の役に立つかと言うと、
 出会いと、繋がりと、ガッツでしょうか(苦笑)。
 時には、論理的でないことも、大いに必要だと思います。

本日は、この辺で。

投稿者 himico-blog