『認知療法の世界へようこそ―うつ・不安をめぐるドクトルKの冒険』井上 和臣(著)
出版社: 岩波書店 (2007/08) ISBN-10: 4000074741

◆スキーマと自動思考

『「とても優秀なんだけど、仕事を任されると、きまって「そんなに賢くないから、できっこない」と即座に
考えてしまう患者がいたんだ。治療を始めて、睡眠時間に見た夢について自由に語ってもらったら、賢くない、
という反応ばかりで。彼女の生活史を振り返ってみても、同じ主題が繰り返し出てきて、それが習慣化されて
いることがわかったんだ。実際には課題を買いけるする能力はずば抜けていたんだけどね。そこで、知性に
ついてどう考えているか尋ねたら、事実とはまるで矛盾するんだけど、彼女は自分のこと愚かだと本当に
信じていたのさ。夢の中の彼女も、愚かで無能で、失敗ばかりしていたんだ。臨床的に得られてこれらの
情報から判断すると、「私は愚かだ」という観点から、患者は自らの経験を組織化してきたと結論できるだろう。
この「私は愚かだ」という観念がスキーマなんだ。スキーマは彼女の知的能力が試される状況になると、
刺激に反応するように、繰り返し喚起されるんだ」』

◆コラム4 認知モデル

『 認知療法の基礎には患者の特徴的な認知(思考や視覚的イメージ)に関する理論、すなわち「認知モデル」がある。
認知モデルは抑うつや不安などを示す各種の精神障害を、認知の障害という観点から説明するものである。
認知モデルを一般的に表現すると、こうなる

ある状況における患者の感情や行動は、その状況に対する意味付け・解釈である
患者の認知によって規定される。

治療の対象となる病態に応じて、うつ病のの認知モデル、パニック発作の認知モデルなどが構築されている。
認知モデルは認知療法を実施するための診断であり、治療を進める上での羅針盤の役割を担う。』

◆うつ症状を軽減する

『1977年、「認知療法研究」創刊号に発表されたラッシュらの論文は、ドクトル・ベックの慧眼が無作為臨床試験に
より実証された画期的成果であった。神経症性うつ病の外来患者41例が認知療法と三環系うつ薬イミプラミンを
用いた薬物療法に無作為に割り付けられ、12週間の治療が行われた。治療終了時の有効率は認知療法郡で83%
に達したが、薬物療法郡では36%であった。さらに、治療中断率は認知療法郡がわずか5%であったのに対し、
薬物療法郡では36%であった。中断の理由は、認知療法郡では治療とは無関係に改善がみられたためであり、
薬物療法郡では治療への無反応や抗うつ薬の副作用によるものが多かった。』

◆死のトライアングル

『 認知療法センター随一の治療者と評判のルースによると、予期せぬ多用な身体感覚の変化を誤って破局的に
解釈することで、いっそう不安が高まるというのが、パニック発作に対する認知療法理論の着眼点であった。
パニック発作の認知モデルは、「動機や息苦しさなどの身体感覚に関する誤った破局的解釈がパニック発作に
至る悪循環を形成する」と定式化される。
患者は不意に襲う動悸を「今にも心臓がとまりそうだ」と考え、息苦しさを「このままだと窒息してしまう」
と誤解する。集中力の低下は「精神的におかしくなる」前兆であり、めまいは「卒倒する」ことを意味し、
衆人環境のなかで「恥をかく」予感に患者はおびえる。
身体的・精神的・社会的死を主題とする破局的認知を軸に「死のトライアングル」が形成されると、
悪循環から逃れることがむずかしくなる。』

◆ロールプレイ

『「「行動」は「しゃがみこむ」のと「胸の辺りを押さえる」しましょう。ところで、なぜそのときしゃがみこんだ
んでしょう?」
「なぜって、苦しかったからです」
「ごめん。「なぜ?」と理由を聞くのは良くなかったね」と今度はドクトルKが中断した。
先週だっただろうか、症例検討会の後の雑談で、マリアンヌが彼女の息子のことでこんあふうに言っていたのを、
ドクトルKは思い出した。
「あの子ったら、なぜ(WHY)僕って悲しいんだろうと言わずに、何が(WHAT)僕を悲しくさせるのかな、って言う
のよ。早くも認知療法の問いかけ方を覚えてきたようだわ」
たしかに、「なぜ?」と問いはじめると、答えはどんどん過去に戻っていく。「なぜ悲しいの?」と聞かれると、
「叱られたから」と返答する。「なぜ叱られたの?」「言うことを聞かなかったから」「なぜ言うことを聞かなかった
の?」「嫌だったから」。どんどん理由が続いていく。
だが「何が?」と尋ねると、少し違った答えが返ってきそうだ。過ぎ去った時に遡るのではなくて、時間が止まって、
今そこにある隠された何かがはっきりする感じと言ったらいいのだろうか。
認知療法では認知を問うときにこう表現する。

What is going through your mind right now?
(まさに今、何があなたの心をよぎっていますか?)

★120ページ強で、しかも小説仕立てですか、手軽に読みやすい本です。
うつ病などの精神疾患の治療法で、米国で1960年代に始まりました。

が、日本では、
2001年に学会が創設されたとのことで、
ある意味、最新の理論といえそうです。

うつ病、パニック障害、対人恐怖、いろんな症例の治療法として注目されているそうです。

本日は、この辺で。

投稿者 himico-blog