『ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ』オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム(著)
出版社: 日経BP社 (2007/8/30) ISBN-10: 4822246078
目次
第1章 MGMの失敗とアパッチ族の謎
第2章 クモとヒトデとインターネットの最高責任者
第3章 ヒトデでいっぱいの海
第4章 5本足で立つ
第5章 触媒のもつ不思議な力
第6章 分権型組織と戦う
第7章 ハイブリッドな組織
第8章 スイートスポットを探して
第9章 新しい世界へ
『 一方、分権型の組織は、もう少しわかりにくい。この種の組織には、はっきりした形で上に立つ者も、
ヒエラルキーも、意思決定の物理的な場所も存在しない。リーダーが登場しても、ほかの人に対してそれほど
強いリーダーシップを発揮するわけではない。せいぜい、自らの行動で実例を示して、他の人が後に続くのを
期待する程度だ。誰もが自分自身で意思決定をする、このような組織を、ネビンズは「開かれた」組織と呼ぶ。
とはいえ、分権型の組織が無政府状態(アナーキー)というわけでもない。規則も規範もあるが、ただ、決まった
ひとりの人間にその規則なり規範なりを守らせる責任があるわけではないということだ。むしろ、権限は各人、
各地域に分散されている。つまり、そこは古代都市テノチラティトランでもなければ、モンテスマ王も存在しない。
では、モンテスマのような指導者なしで、どうしたら国を統率できるのか。アパッチ族には、他の部員における
首長にあたる存在の代わりに、ナンタンと呼ばれる精神的および文化的な指導者がいた。ナンタンは行動で規範を
示すだけで、他者に何かを強要する権限は持たなかった。部族のメンバーは、ナンタンに従いたいから従うのであって、
強制されたからではない。史上最も有名なナンタンの一人が、アメリカ人相手に何十年も部族を守ったジェロニモ
だった。ジェロニモは軍隊の指揮をとったわけではないが、彼が一人で戦い始めると、周囲の者もついて行った。
「ジェロニモが武器を手にとって戦うのなら、たぶん、そうするのがいいんだろう。ジェロニモは今まで間違った
ことがないから、今度も、彼といっしょに戦うのがいいだろう」というわけだ。ジェロニモについて行きたければ
ついて行けばいい。行きたくなければ、行かなくていい。一人ひとりに権限があるので、それぞれがやりたいように
する。「するべきだ」という言葉はアパッチ族の言語に存在しない。「強制する」という概念は、彼らに理解しがたい
ものだ。』
『 アパッチ族はスペイン軍に負けなかったばかりか、驚いたことに、攻撃されてますます強くなった。スペイン軍の
攻勢にさらされたアパッチ族はさらに細かく権限を分散し、さらに征服しにくい組織に変化した。アパッチの社会で、
住む村が重要な場所だったら、スペイン軍に村を破壊されたら降服せざるをえなかったかもしれない。でも、村は
必要不可欠のものではなかったので、アパッチは古い家屋を捨て、遊牧生活を始めた。
これが、分権についての重要な第一の法則だ。分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態に
なり、権限をそれまで以上に分散させる。』
『 あなたがくも型組織の人間だったとしても、企業同士の戦いをただ眺めている傍観者だったとしても、分権型組織の
五つ目の法則に遅かれ早かれ気づくだろう。ヒトデたちには、誰も気づかないうちにそっと背後から忍び寄る性質が
ある。分権型組織はあまりに速いスピードで変化するので、あっという間に成長する可能性もある。クモ型組織は
ゆっくりと資金を増やし、権限の集中を進めつつ、長い時間をかけてクモの巣をはりめぐらせていく。でもヒトデ型
組織なら、短時間で業界全体を乗っ取ることも可能なのだ。何百年もの間、人はアルコール中毒と戦おうとしてきた
が、アルコホリックス・アノニマスは、出現してほんの数年のうちに、中毒から抜け出す方法を確立した。
人は産業革命以来、郵便や、電報、電話で通信を行ってきたが、インターネットは10年足らずの間にすべてを変えた。』
◆クレイグズリスト
『 クレイグがコミュニティを重んじていることはよくわかった。それでも、私たちとしては、仮の話としてでも、
彼のビジネス戦略を聞きたかった。サイトへの膨大なアクセスを活用してもうける気はないのだろうか。
こういう質問をぶつけると、クレイグはまず下を向き、それから机を見つめた。まるでこんなことを聞かれるだけで
不愉快だと言わんばかりだった。私たちは、「なにかまずいことを言ったかな?」と思って気まずくなった。
クレイグは、「ジム、この質問には君から答えたらどうかな」と言った。そしてジムが、(要するに「誰にも何も
売らないよ」という)答えを言う間、クレイグは、放置してあった郵便物の山にかかりきりになった。録音した
インタビューを聞くと、後半部分は、クレイグが封筒を破いて開く音で話が聞きにくいほどだった。クレイグは、
郵便物を開封し終えると、パソコンに向かってEメールの返事を書き始めた。
30分後ににクレイグズリストのあるビクトリア朝の建物を出たとき、私たちはちょっとめんくらったような気持ちに
なっていた。インタビューの最中に何が起きたのだろう。そのうち、気がついた。最初からずっと、私たちは
クレイグズリストのシステムがどんなに開かれたものであるかということは話に出なかった。開かれた組織では、
最も重要なのはCEOではなく、組織のリーダーが、組織を構成するメンバーをどれだけ信頼し、その自主性に任せる
かなのだ。なんらかの理由で─ユーザーを信頼しているか、自分の会社を大きくしたくないか、もしかするとその
両方の理由で─クレイグはユーザーに敬意を払い、彼らの自主性に任せているのだ。
ここで私たちは重要な教訓を学んだ。ユーザーは、自分が使っているのがクモ型組織か、ヒトデ型組織なのか、
気がつかないし、もしくは気にも留めない。ユーザーは、自分たちに自由があって好きなようにやらせてもらえる
限り、文句はないのだ。』
◆戦略その2:権限を中央にあつめさせる(牛型アプローチ)
『 ネビンズが話してくれたのはこういう物語だった。「アパッチ族は、1914年までずっと脅威だった。彼らの
軍隊は、20世紀の初めにはまだホワイト・マウンテンの居留地に駐留していた」。なぜアパッチ族を打ち負かすのが
それほど難しかったのだろうか。それは、ナンタンの存在のせいだった。「人々は、その行動やふるまいを見て、
最も有能なリーダーだと思う人物をナンタンとして支持した。新しいナンタンが決まるのには時間もあまりかからない」。
次々に新しいナンタンが出てくると、アメリカ人はようやく方針を転換する。「アパッチ族を支配するには、彼らの
最も基本的な部分を攻撃しなくてはならないと気がついた。そのために、同じアパッチ族に属するナバホ・インディアン
に対して初めて試し、その後、西アパッチ族を攻めたときに完成させた手段を利用した」
アメリカ人は、アパッチ族のナンタンたちに畜牛を与えて、その社会を壊したのである。簡単なことだった。いったん、
ナンタンが牛という貴重な資源を手にすると、それまでシンボル的なものだった彼らの権力が、物質的なものへと
変化した。以前は、ナンタンは自らの行動で人々の規範となっていたのに、牛を手にしてからは、物質的な資源を
分け与えたり、与えなかったりすることで、アパッチ族の人々に報いたり、罰したりするようになった。
すべてを変えたのは牛だった。権威的な力をもつようになると、ナンタンたちは、創設されたアパッチ族内部の
議会の議席を争うようになり、まるで「インターネットの最高責任者」のような行動をとり始めた。アパッチ族の人々も
より多くの資源を要求するようになり、思い通りに分配されないと気を悪くした。かつてはフラットだった権力構造が、
トップに力が集中するヒエラルキーになったのだ。それがアパッチの社会を崩壊させた。ネビンズはこう語る。
「今ではアパッチ族も中央集権的な政府をもっている。でも僕は、個人的に、彼らにとって災難だと思うよ。種族の間で
資源をめぐってゼロサム的な戦いが起きてしまっているからね」。厳格な権力構造が生まれた結果、アパッチ族は、
アステカ民族のようにアメリカ人の支配下に置かれることになったのだ。』
★読んでから1週間以上たってので、印象は薄れてしまっています。
「フラット化する社会」の類書だといえます。
ただ、歴史からも、フラットな組織の強さを引っ張り出してきている点は、説得力があります。
組織は、小さい方が有利で「規模の不経済」、ネットワークの効果を活用する。
創造性が評価される場では、無秩序状態を受け入れる必要がある。整理整頓ができない人でも十分通用する?
そして、参加者が、自らの貢献したいと思えるような組織を目指す。権限をメンバーにゆずって、コミュニティを信頼する
ことが大事。
まぁ、従来の、企業組織論とは、だいぶ違います。
一筋では、営利を目的とする企業には、なじまないかもしれません。
本日は、この辺で。