『アー・ユー・ハッピー? 』矢沢 永吉(著)
出版社: 角川書店 (2004/04) ISBN-10: 4041483026
目次
オーストラリア事件
裏切り
マリアとの出会い・離婚と再婚
レコード会社移籍
臆病について
コンサートを仕切る・制作・招聘ライセンス・興行
ドラマとCM
ビジネス
オーストラリア事件が教えてくれたこと
アメリカ
家族
ファン
音楽
マスコミ
カネと幸せ
ウェンブリー
オヤジのツッパリ
『 昔は「運転資金をいくらでも貸します」と言われたらうれしかった。夜汽車に乗って広島から出てきた
チンピラに、五億、七億貸すと、銀行さんが言っている。それだけで昔のオレはうれしかった。それは
バブルのときだった。
バブルのときにオーストラリアに三十億以上の金を投下したのは、やっぱりそういう酔いがあった、
驕りがあった。銀行がオレをそこまで認めたのがうれしかった。
たまたまオレには余裕があった。また、ゴールドコーストに音楽基地をつくるという夢もあった。それで
話に乗った。若かったんだ。
事件はそのことに気づかせてくれた。ちゃんとした経営者になれよ、ちゃんとした男になれよ、ということ
を事件は教えてくれた。
いままた銀行は「三億でも五億でも融資します」と言っている。だけどなにかが変わった。
なにが変わったか。
オレは「ノー」と言える。借りるか借りないかは銀行じゃなく、オレが決めるんだ。
「融資すると言ってくれるのはありがたいと思います。でも、いまはけっこうです。必要なときは、私から
そちらに融資してほしいと申し上げます」
必要なときとはなにか。
ミエ。メンツ。そういったもの一切関係なしに、「これは将来につながるから、絶対にやっておくべきだ」と
判断するようなことだ。
これが事件後の矢沢だ。』
『 矢沢の言い分はまともだと思う。だって、日本政府はバブルが崩壊して何をしてる?税金を投入している。
建設会社やでかい企業は銀行になんて言っている? 債権放棄、借金棒引き。だけど、そういう体質だから
山一證券はふっとんだんじゃなかったのか。
オレがもし建設会社と同じように「オレの負債だけど、オレは詐欺・横領の被害者だから、借金返すのやめた
ごめん」ってやったらどうする? 大企業がいまやっていることを、オレが見習って、住宅ローン抱えた
サラリーマンもみんな見習ったらどうなる。銀行はバタバタ潰れる。日本はオシマイになる。』
『 人にものを借りたら、返す。百円借りたら、百円返す。銀行から一万円借りたら、一万円に利子つけて返す。
それは社会のルールだ。オレらはそう小学校で教わった。
ところが、「ないものは返せません」というのがまかり通っている。
借りた金を返さないというのは正義なんですか? でもいまの風潮はそうだよね。金を借りた方が被害者みたい
な顔をしている。「金返せって言われちゃったよ」って。返せっていう言い方がきついから、訴えてやる、
なんていうのがまかり通っている。
ここのところをちゃんとしないと、正義はなくなる。金を借りて踏み倒すヤツが正しくて、借金を取り立てる
ヤツが悪なのか。いまはそうなりつつある。
もう一回、小学校に戻ろうよ。小学校に戻ろうというのは、人には親切にしなければいけない、人の痛みを
わかってやらなきゃいけない、助けられたら自分も助けなきゃいけない、借りたものは返さなきゃいけない。
借りたものをなかったことにして、「返せないものはしょうがないだろ」っていうことをいま大人たちは
やっている。マスコミもそれを助長してる。
オレたちは本当のことを語るような日本にしなきゃいけないんだ。
本当のことってなんだ?』
『 サラリーマンをバカにするな。
サラリーマンは誰のために、毎朝つり革を握って、満員の山手線に乗っているんだ?
若いヤツらが、「オヤジはバカだ」「オヤジはダサイ」と言いつづけるなら、「やーめた」とおじさんたちが
全員で言って、仕事なんておっぽり出して、湘南でタバコをふかして、昼真っからビールを飲んでいることだって
できる。
おじさんたちが一斉にそれをやったら、確実に日本は終わるぜ。
「オヤジはクサイ」なんて言ってるやつらは、その覚悟があって言ってるのか?
マスコミは、「オヤジたちが仕事を放り出すような、そんなことはしないだろう」となめて、それでペンを
もてあそんでいるのか。』
『 リストラ? べつにされりゃ、いいじゃん。こっちからくれてやるよ、こんな会社。そう居直ってしまえばいい。
本当に生きようと思え。人生を本当に楽しめよ。あんた、あんただよ。いまこの本を読んでいるあんただよ。
会社をリストラされただけで、「もうオレの人生はおしまいだ」なんて、なんで思うんだ?
まあいいじゃん。皿洗いでもなんでもやる根性を持てよ。空き缶でも拾えよ。空き缶を拾うことが悪いのか?
空き缶を拾ったら、それで人生は終わるのか?
そんなことはない。
オレはあんたのそこしか見てないと思っているのか?空き缶を拾ったらまずい、ってことだけ見てるのか?
そんなことはない。
せっかく生まれてきたんだから、と思えばいいじゃないか。
あまり惑わされないほうがいい。雑誌に惑わされるな。テレビに惑わされるな。新聞に惑わされるな。
マスコミに惑わされると、リストラされたらもう人間じゃないじゃないかと思ってしまう。
リストラはあんたのせいじゃない。会社の都合でリストラされた。あれはひとつの都合だ。会社の都合。
経営者にだって都合はある。現金払わなきゃいけない。家賃も払わなきゃいけない。あんたと一緒だよ。あんだ
だけが辛いわけじゃない。経営者だって辛いから、あんたに会社をやめてくれって言っている。
経営者も必死だ。運転資金を用意しなきゃいけない、銀行への支払いはある。どうしよう、どうしよう。
「悪いけど、もうやめてくれ。あんたも辛いけど、オレも死にそうなんだ」って経営者は言ってる。でも
それだけだ。たかが会社の都合だ。
会社の都合が自分の人生をとことん否定するところまでいっちゃうのが、いまの社会だ。だからリストラされたら、
人間扱いされないような錯覚に陥る。「オレの人生は終わった!」みたいな気分になる。首吊ったり、ホームレス
になったりする。』
★夏休みモード、最後の日なので、今度はエッセイを紹介しました。
ホントは、オーストラリアの巨額詐欺事件を、詳しく、正直に書かれているところが山場かもしれません。
また、人生の振り返りと言う点では、山あり、谷ありの、谷も受け入れて、
全ての自分の過去を肯定し、許している点に、非常に、感銘しました。
矢沢永吉ファンのみならず、
文章を書く方には、ぜひ、お勧めです。
本日は、この辺で。